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悩みすぎて、一歩を踏み出せないときの対処法
「私、自分が何を好きなのかよく分かってないかもです」
と、凛は言う。
彼女は難しいSMの用語や、概念を知識として持っている。
ただ、それは言葉として知っているだけで、自分にとってそれが何なのか、までは分からない。
私は次のように答える。
「好きかどうかって、結局やってみるまで分かんないものです。
服を買う時と一緒で、可愛いな、と思って着てみた赤い服が実はあんまり似合わなかったり、逆に興味ないなーと思っていた服を着てみたら意外と似合ったり。
最初に考えていたイメージとは、全然違う結果になることもある」なるほど、その例えで胸にストンと落ちました、と彼女は納得した。
私は彼女に必要なのは、SM的な被虐,支配体験ではないと感じていた。
彼女は人並みに化粧をするが、口紅を塗ったことはないのだという。
ずっと両親の下で、子供のように振舞ってきた自分。
健全な肉体と、健全な体を持った「成長した女の子」であることは善き事だが、「女」をアピールする必要はない。
だが、凛はもう子供ではない。
一人で歩くべき、大人なのである。
手始めに私は彼女が避けている「女」を、自覚させることにする。
鏡の前の、女体を共有する。
(” 1話からの続き ”)「…なにをするんですか?」
「凛の、体のチェックだよ」
「チェック?」
「そう。いやらしい、女の体を」
写真で、という言葉は補わなくても凛は理解する。
下卑た言葉と共に、これから自分がすべきことを理解して、彼女はぶるっ、と微かに震えたかもしれない。「…わかりました」
割りあいすんなりと、彼女は許諾した。
「でも、スタイルいいわけでないので、見てて楽しいものでもないかもです」
心配はいらない、と私は答える。
自分が見て楽しむわけに要求しているわけではない。
「どうすればいいですか?」
「鏡の前で、スカートをたくし上げて撮ってみて」
しばしの沈黙の帳が降り、返信が届く。
「撮りました…」
見せてごらん、と促すと、凛は一枚の写真を送ってきた。
「いやらしい格好だね」
「ごめんなさい、どきどきするし、手も足も震えちゃって」
今頃、彼女の頭は真っ白になっているのだろう。
思考が血流に押し流されてしまうみたいに。
「自分の姿、どう思う?」
「はしたないと思います」
素直に答えた後、少しだけ間をおいてもう一通の返信が届く。
「でも、もっと指示が欲しいです」
やはり、というべきか。
いままで避け続けてきた女体の提示が、彼女にとって未知の興奮剤となっているようだ。
「一枚ずつ。自分の体を説明しながら脱いでいきなさい」
その作業はゆっくりと進められていく。
最後に至るまでには、結構な時間がかかる。
だが、凛の頭には時間の感覚もなくなるくらいに興奮が渦巻いていた。
「初めてパンツを下したとき、どんな気分だった?」
私は後になって、そう聞いたことがある。
「自然とそれまであった震えが止まって、ふわふわ気持ちよくなって
あとは見られたくてしょうがなかったです…」
M女はよく「スイッチが入る」という表現を使う。
まさにそんな状態だったのだろう。
しんしんと耳鳴りがするくらいの興奮の中、鏡に映った自分の体を見ながら下着を下ろしたとき
股間との間にだらりと糸をひいたらしい。
「もっと、指示してもらえませんか」
「だめ」
私は、凛の要求をにべもなく断る。
「続きは、会ったときにしましょう」
淫らになった自分の体を、大人の男と共有する。
少女性はいよいよ失われる。
何も言い訳はできない。
子作りのための清いセックスではない。
ただ、あさましく眠っていた、青い性欲
女として、性の対象になる覚悟。
凛の内側に、「女」の火が灯る。
男の性的対象となるための、体。
私は、それを持っている。
最初、揺れていた凛の決意は、この頃はすでに固まっていた。
「〇日ですが、お会いしたあとに少しカフェでも寄りましょう。
そこで、最終的な意思を確認させてもらいます」
私の送ったメッセージに、凛は分かりました、と返事をした。
そのあとに、少しだけ気持ちを付け加えてくれた。
「最初はしたくないことは絶対したくないと思っていたのですが、今はハルトさんに叩かれたり自由にしたいことされたら、自分はどう反応するんだろうって少し興味があります」
凛の心は、少しずつ溶けてきているようだった。
おまけ:火のついた心
この体験を通して、凛はちょっと新しい性癖を開拓したみたいである。
「いろいろお話してくださったのが、嬉しくて濡れてしまってて…。なんて言ったら信じてもらえるか分からなくて、写真とったのですが送ってもいいでしょうか?」
口下手な彼女が自らを分かってもらうためには、実物を見せるというのが確実な方法となったらしい。
M女は、変えれば変えるほどに、元のかたちを脱ぎ捨てて飛び回る…
M女は、変えれば変えるほどに、元のかたちを脱ぎ捨てて飛び回る…
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